nitomath’s blog

分からなかったことのメモ

直列システムと並列システムの信頼度の式の導出

以下のような2つの構成要素(信頼度 R_1の構成要素1と信頼度 R_2の構成要素2)を持つ直列システムと並列システムを考えます。

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直列システム(左)と並列システム(右)

 R_1 R_2は各構成要素の信頼度(正常に動作する確率)です。

このとき、直列システムの信頼度 R_a

\displaystyle{
R_a=R_1R_2
}

となります。

また、並列システムの信頼度 R_b

\displaystyle{
R_b=1-(1-R_1)(1-R_2)
}

となります。

この記事ではこれらの信頼度の式を導出します。

直列システムの信頼度

直列システムはその名の通り、構成要素が直列に接続されています。 そのため、構成要素のうちどれか一つが故障すれば、システム全体が正常に動作しなくなります。 つまり、直列システムが正常に動作するには、すべての構成要素が正常に動作している必要があります

このことから、

(直列システムの信頼度)
=(構成要素1と構成要素2がともに正常に動作している確率)

といえます。

直列システムでは「構成要素1が正常に動作すること」と「構成要素2が正常に動作すること」は互いに影響を与えません。 このことは確率の言葉を使えば、「構成要素1が正常に動作すること」と「構成要素2が正常に動作すること」は互いに独立であると言えます。*1

構成要素2の立場からすれば、構成要素1が正常に動作しているのか故障しているのかは知ったこっちゃないということです。 構成要素1が正常に動作していようが故障していようが、自分(構成要素2)が正常に動作するときは正常に動作するし、故障するときは故障します。 構成要素1の立場からしても同じことが言えます。

「構成要素1が正常に動作すること」と「構成要素2が正常に動作すること」は互いに独立なので、

(構成要素1と構成要素2がともに正常に動作している確率)
=(構成要素1が正常に動作している確率)×(構成要素2が正常に動作している確率)
=(構成要素1の信頼度)×(構成要素2の信頼度)

以上のことから、直列システムの信頼度 R_a

\displaystyle{
R_a=R_1R_2
}

となることがわかります。

並列システムの信頼度

並列システムはその名の通り、構成要素が並列に接続されています。 そのため、構成要素が1つ故障してもシステム全体は正常に動作しつづけます。*2 つまり、並列システムが正常に動作するには、少なくとも1つの構成要素が正常に動作していることが必要です

ここで並列システムが故障する確率(故障率)のことを考えてみます。*3 「並列システムが正常に動作するには、少なくとも1つの構成要素が正常に動作していることが必要」ということを故障率の視点から言い換えると、「並列システムが故障するのは、すべての構成要素が故障したとき」となります。

直列システムの時と同様に、並列システムでも各構成要素が正常に動作するか故障するかは互いに独立です。 そのため、並列システムの故障率は構成要素1の故障率と構成要素2の故障率の積で表され、 (1-R_1)(1-R_2)となります。

「信頼度=1−故障率」なので、並列システムの信頼度 R_b

\displaystyle{
R_b=1-(1-R_1)(1-R_2)
}

となります。

 n個の構成要素からなる直列(並列)システムへの拡張

以上の話は構成要素が2個の直列(並列)システムに限ったものではありません。  n個の構成要素を直列に接続した直列システムや、 n個の構成要素を並列に接続した並列システムでも成り立ちます。

つまり、 n個の構成要素からなる直列システムの信頼度 R_a'は、 i番目の構成要素の信頼度を R_iとすると、

\displaystyle{
R_a'=\prod_{i=1}^n R_i
}

となります。

また、 n個の構成要素からなる並列システムの信頼度 R_b'は、

\displaystyle{
R_b'=1-\prod_{i=1}^n (1-R_i)
}

となります。

*1:これは並列システムでも同じです。

*2:このことを冗長性といいます。

*3:「故障率=1−信頼度」です。

ベース接地時の電流増幅率とエミッタ接地時の電流増幅率の関係式をプロットしたいだけ

この記事ではnpn型トランジスタを前提としています。

トランジスタをベース接地したときの電流増幅率  \alpha とエミッタ接地ときの電流増幅率  \beta には次式のような関係があります。*1

 {\displaystyle
\beta=\dfrac{\alpha}{1 - \alpha}
}

次の図はグラフを  0\leq\alpha\leq1.4 の範囲でプロットしたものです。  0から 1に近づくに連れて、エミッタ接地時の電流増幅率 \betaが大きくなっていくことが確認できます。

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実際のトランジスタではベース接地時の電流増幅率  \alpha 1より少し小さいくらいになります。 ということで、グラフの  0.99\leq\alpha\leq1 の範囲を拡大したものが次のグラフです。(縦軸を対数にしています)

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拡大(縦軸が対数)

秋月電子で売っているこのトランジスタではエミッタ接地時の電流増幅率が最大で 600となっています。 グラフから、このトランジスタをベース接地したときの電流増幅率は約 0.9983であることが読み取れます。

*1:ベース接地のときはエミッタが入力、コレクタが出力となるので、 \alpha=i_c/i_e です。 エミッタ接地のときにはベースが入力、コレクタが出力となるので、 \beta=i_c/i_bです。 ベース電流 i_b、コレクタ電流 i_c、エミッタ電流 i_eの間には i_e=i_b+i_cという関係が成り立ちます。 これを i_b=i_e-i_cと変形し、 \beta を書き換えると、 \beta=i_c/(i_e-i_c)となります。 右辺の分母と分子を i_eで割ることで、 \beta=(i_c/i_e)/(1-(i_c/i_e) )=\alpha/(1-\alpha)の関係が導かれます。

RLC直列回路の力率角と有効電力の関係をグラフから考える

交流回路の電力

交流回路では3種類の電力があります。 それは、

  • 皮相電力: P_s = VI~[\mathrm{VA}]
  • 有効電力: P = VI\cos\phi~[\mathrm{W}]
  • 無効電力: P_q = VI\mathrm{sin}\phi~[\mathrm{var}]

です。  V Iは電圧と電流の実効値です。

2番目の有効電力が実際に回路が消費する電力です。 単に「電力」と呼ばれることもあります。

有効電力( VI\cos\phi)の  \cos\phi の部分は力率と呼ばれ、皮相電力に対する有効電力の割合を示します。また、 \phi を力率角と呼びます。 (あとで述べますが、力率角はインピーダンス角と一致します。)

力率が大きいほど、有効電力は大きくなります。 つまり、有効電力は  \cos\phi = 1 \phi=0)のときに最大(  P=VI )となり、 \cos\phi = 0 \phi=\pi/2)のときに最小(  P=0 )となります。*1

この記事では、力率(角)と有効電力の関係について、瞬時電力のグラフをもとに考えてみます。

瞬時電力と有効電力の関係

まず、瞬時電力と有効電力の関係をはっきりさせましょう。 ……とはいっても、難しいものではありません。 有効電力は瞬時電力の平均値。これだけです。

下図のようなRLC回路で瞬時電力と有効電力の関係を考えます。

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RLC直列回路

インピーダンス*2 \theta 、電源の角周波数が  \omega、電圧が電流に対して遅れているとすると、電流の瞬時値  i

{ \displaystyle
i=\sqrt{2}I\sin(\omega t)
}

電圧の瞬時値  v

{ \displaystyle
v=\sqrt{2}V\sin(\omega t - \theta)
}

です。 ここで、電流と電圧の周期  T

{ \displaystyle
T=\dfrac{2\pi}{\omega}
}

です。

ある瞬間に消費される電力は、その瞬間の電流  i と電圧  v の積なので、電力の瞬時値  p

{ \displaystyle
p=2IV\sin(\omega t)\sin(\omega t - \theta)
}

となります。

有効電力  P は電力の瞬時値の平均です。 つまり、電力の瞬時値  p 0 \leq t \leq T の範囲で積分し、それを  T で割ったものが有効電力となります。

{ \displaystyle
P=\dfrac{1}{T}\int_{0}^{T}
  2IV\sin(\omega t)\sin(\omega t - \theta)
  \mathrm{d}t
}

力率角=インピーダンス

上式を計算すると

{ \displaystyle
 P = VI\cos\theta
}

となります。*3

この記事の最初の方で、

有効電力( VI\cos\phi)の  \cos\phi の部分は力率と呼ばれ、皮相電力に対する有効電力の割合を示します。また、 \phi を力率角と呼びます。

と述べました。 今回の計算結果( P=VI\cos\theta)を見ると、力率角 \phiの位置にインピーダンス \theta があります。 つまり、RLC直列回路において、力率角はインピーダンス角に一致するということです。

インピーダンス角と有効電力の関係

さて、ここからこの記事で一番やりたかったことに入ります。

インピーダンス \theta が大きくなるほど、RLC直列回路の有効電力  P は小さくなります。 そりゃあそうです。  P=VI\cos\theta を見れば当たり前です。

では、このことを電力の瞬時値のグラフから理解できないでしょうか

電力の瞬時値のグラフ

電力の瞬時値  p は電流の瞬時値と電圧の瞬時値の積として表せました。

{ \displaystyle
p=2IV\sin(\omega t)\sin(\omega t - \theta)
}

話を単純にするために、この式を簡単にしたものが

{ \displaystyle
p=\sin(t)\sin(t - \theta)
}

です。*4

そして、下図は  \theta=0,~\pi/4,~\pi/2 のときのグラフです。

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電力の瞬時値のグラフ。θ=0のときは常に0以上だが、θが大きくなるほど0未満の値を取る時間が増えている。

 \theta=0 のときは常に  p \geq 0 ですが、それ以外では  p \lt 0 となる  t が存在します。

面積と有効電力

有効電力  P は電力の瞬時値の平均を取ることで得られました。

{ \displaystyle
P=\dfrac{1}{T}\int_{0}^{T}
  p
  \,\mathrm{d}t
}

つまり、有効電力を求めるさいに、 p の定積分を計算しています。

積分を計算しているということは  p=\sin(t)\sin(t - \theta) t 軸が囲む符号付き面積を計算しているということです。 電力の瞬時値  p のグラフを見てみると、 \theta が大きくなるほどに  p \lt 0 となる  t の範囲が増えています。 つまり、負の面積が増えているということです。 負の面積が増えるということは、それだけ定積分の結果は小さくなります。 したがって、負の面積が増えるほど、有効電力も小さくなります。

まとめ

RLC直列回路のインピーダンス \theta が大きくなると、有効電力  P は小さくなります。 この記事では、このことを電力の瞬時値  p のグラフから考えました。

電力の瞬時値のグラフは、 \theta=0 のときは常に  p \geq 0 でしたが、それ以外では  p \lt 0 となる  t が存在しました。 そして、 \theta が大きくなるほど  p \lt 0 となる  t の範囲は大きくなりました。 それにともない、 0 \leq t \leq T における  p の定積分は小さくなりました。 結果として、有効電力  P も小さくなりました。

*1:力率の範囲は0以上1以下です。つまり、 \cos\phi \lt 0 となるような場合は考えません。

*2:この記事では  0 \leq \theta \leq \pi/2 とします。

*3:加法定理を使いまくってください

*4: I=1/\sqrt{2},~V=1/\sqrt{2},~\omega=1