nitomath’s blog

分からなかったことのメモ

RLC直列回路の力率角と有効電力の関係をグラフから考える

交流回路の電力

交流回路では3種類の電力があります。 それは、

  • 皮相電力: P_s = VI~[\mathrm{VA}]
  • 有効電力: P = VI\cos\phi~[\mathrm{W}]
  • 無効電力: P_q = VI\mathrm{sin}\phi~[\mathrm{var}]

です。  V Iは電圧と電流の実効値です。

2番目の有効電力が実際に回路が消費する電力です。 単に「電力」と呼ばれることもあります。

有効電力( VI\cos\phi)の  \cos\phi の部分は力率と呼ばれ、皮相電力に対する有効電力の割合を示します。また、 \phi を力率角と呼びます。 (あとで述べますが、力率角はインピーダンス角と一致します。)

力率が大きいほど、有効電力は大きくなります。 つまり、有効電力は  \cos\phi = 1 \phi=0)のときに最大(  P=VI )となり、 \cos\phi = 0 \phi=\pi/2)のときに最小(  P=0 )となります。*1

この記事では、力率(角)と有効電力の関係について、瞬時電力のグラフをもとに考えてみます。

瞬時電力と有効電力の関係

まず、瞬時電力と有効電力の関係をはっきりさせましょう。 ……とはいっても、難しいものではありません。 有効電力は瞬時電力の平均値。これだけです。

下図のようなRLC回路で瞬時電力と有効電力の関係を考えます。

f:id:nitomath:20200607151017p:plain
RLC直列回路

インピーダンス*2 \theta 、電源の角周波数が  \omega、電圧が電流に対して遅れているとすると、電流の瞬時値  i

{ \displaystyle
i=\sqrt{2}I\sin(\omega t)
}

電圧の瞬時値  v

{ \displaystyle
v=\sqrt{2}V\sin(\omega t - \theta)
}

です。 ここで、電流と電圧の周期  T

{ \displaystyle
T=\dfrac{2\pi}{\omega}
}

です。

ある瞬間に消費される電力は、その瞬間の電流  i と電圧  v の積なので、電力の瞬時値  p

{ \displaystyle
p=2IV\sin(\omega t)\sin(\omega t - \theta)
}

となります。

有効電力  P は電力の瞬時値の平均です。 つまり、電力の瞬時値  p 0 \leq t \leq T の範囲で積分し、それを  T で割ったものが有効電力となります。

{ \displaystyle
P=\dfrac{1}{T}\int_{0}^{T}
  2IV\sin(\omega t)\sin(\omega t - \theta)
  \mathrm{d}t
}

力率角=インピーダンス

上式を計算すると

{ \displaystyle
 P = VI\cos\theta
}

となります。*3

この記事の最初の方で、

有効電力( VI\cos\phi)の  \cos\phi の部分は力率と呼ばれ、皮相電力に対する有効電力の割合を示します。また、 \phi を力率角と呼びます。

と述べました。 今回の計算結果( P=VI\cos\theta)を見ると、力率角 \phiの位置にインピーダンス \theta があります。 つまり、RLC直列回路において、力率角はインピーダンス角に一致するということです。

インピーダンス角と有効電力の関係

さて、ここからこの記事で一番やりたかったことに入ります。

インピーダンス \theta が大きくなるほど、RLC直列回路の有効電力  P は小さくなります。 そりゃあそうです。  P=VI\cos\theta を見れば当たり前です。

では、このことを電力の瞬時値のグラフから理解できないでしょうか

電力の瞬時値のグラフ

電力の瞬時値  p は電流の瞬時値と電圧の瞬時値の積として表せました。

{ \displaystyle
p=2IV\sin(\omega t)\sin(\omega t - \theta)
}

話を単純にするために、この式を簡単にしたものが

{ \displaystyle
p=\sin(t)\sin(t - \theta)
}

です。*4

そして、下図は  \theta=0,~\pi/4,~\pi/2 のときのグラフです。

f:id:nitomath:20200607155236p:plain
電力の瞬時値のグラフ。θ=0のときは常に0以上だが、θが大きくなるほど0未満の値を取る時間が増えている。

 \theta=0 のときは常に  p \geq 0 ですが、それ以外では  p \lt 0 となる  t が存在します。

面積と有効電力

有効電力  P は電力の瞬時値の平均を取ることで得られました。

{ \displaystyle
P=\dfrac{1}{T}\int_{0}^{T}
  p
  \,\mathrm{d}t
}

つまり、有効電力を求めるさいに、 p の定積分を計算しています。

積分を計算しているということは  p=\sin(t)\sin(t - \theta) t 軸が囲む符号付き面積を計算しているということです。 電力の瞬時値  p のグラフを見てみると、 \theta が大きくなるほどに  p \lt 0 となる  t の範囲が増えています。 つまり、負の面積が増えているということです。 負の面積が増えるということは、それだけ定積分の結果は小さくなります。 したがって、負の面積が増えるほど、有効電力も小さくなります。

まとめ

RLC直列回路のインピーダンス \theta が大きくなると、有効電力  P は小さくなります。 この記事では、このことを電力の瞬時値  p のグラフから考えました。

電力の瞬時値のグラフは、 \theta=0 のときは常に  p \geq 0 でしたが、それ以外では  p \lt 0 となる  t が存在しました。 そして、 \theta が大きくなるほど  p \lt 0 となる  t の範囲は大きくなりました。 それにともない、 0 \leq t \leq T における  p の定積分は小さくなりました。 結果として、有効電力  P も小さくなりました。

*1:力率の範囲は0以上1以下です。つまり、 \cos\phi \lt 0 となるような場合は考えません。

*2:この記事では  0 \leq \theta \leq \pi/2 とします。

*3:加法定理を使いまくってください

*4: I=1/\sqrt{2},~V=1/\sqrt{2},~\omega=1